アイコンは削り出されたばかりの1枚の経木。何とも美しい。
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先月の話になりますが1ヵ月という期間の間、群馬県に在る阿部経木店さんで実地研修を受けさせてもらっていました。
今回の研修の目的は2つあり、1つは経木の製造について学ぶ事。そしてもう1つはどれだけの設備投資が必要になるのか探るというものでした。
そして研修が終わった今感じる事は、とんでもなくシビアで職人の世界だなという事です。いや、そんな事今更?と言われそうですが、今更なんです(笑)。そして何よりこの体験をどう文字として表現していけばいいのかという気持ちが感情を占めています。何というか言葉では表しきれない感謝の念というか畏敬の念というか、そんな気持ちです。
研修期間中の自分は8:30~17:30というタイムスケジュールで研修させてもらっていましたが、晋也さんと父親は7:30~18:30というタイムスケジュールで普段は作業をしているそうです(もしくはもう少し早い始業時間)。そして土曜日も基本的には作業をしているとの話で、本当にタフとしか言いようのない世界です(私は大変心苦しいのですが、土曜日はお休みを頂きました)。
作業は大まかに2つの要素で構成されており、1つは男性陣が行う製造、1つは女性陣が担う製品化という風に分けられています。そして男性陣の勤務時間は先に挙げた通りの時間ですが、女性陣は8時半~17時半と明確に線引きされていました。製品化や発送を担う女性陣は3名おり、晋也さんと父親のパートナーにパートさんという構成です。
製品化部門については毎日ほぼ同じ作業をしている様ですが、製造部門については曜日毎にある程度分かれており、製材と削りの日が大体交互になっているという感じです。例えば月曜日は製材で火曜日が削りの日みたいな感じです。
月間で製造する量については詳細はわからないと語っていたものの、凡そ30万~40万枚製造・出荷しているのでは?と語っておりました。この数量がどれだけ凄いものかというのを伝えるのは難しいですが、先の勤務時間を2人で働いて達成している数量という事から、けっこう限界に近い数量とだけお話させていただきます。
そしてこの光景を間近で1ヵ月間見続けた私は、一つの結論に至りました。それは『副業として、あるいは片手間で取り組むには、あまりにもタフで険しい道だ』と。
しかし、このタフな仕事の連続体の中にも、阿部さん一家にしか作れない独特の空気感、ある種の心地よい「緩さ」のようなものが流れていることに気が付きました。
これほど過酷なタイムスケジュールならば現場はもっと殺伐として、ガツガツした雰囲気になりそうなものです。しかし、阿部経木店さんの時間はもっとしなやかに流れていました。お昼休憩だけでなく、10時と15時には必ず全員で小休止を挟みます。また、仕事中であっても、皆さん私用があれば自然に作業場を離れ、用が済めばまた当たり前のように戻ってきて作業を再開する。
その独特の緩さを醸し出している要因を考えたとき、一つの答えに行き着きました。それは『経木作りが、生活の一部として完全に溶け込んでいる』ということです。
阿部さん方にとって経木を作る事は単なる「労働」ではなく、呼吸をするのと同じくらい日常の一部になっている。だからこそ12時間という長丁場でも、生活のリズムを崩さずに走り続けられる。この「タフさと緩さの共存」こそが、三代続いてきた家庭内工業の言葉では表しきれないエモーショナルな真髄なのだと感じました。
そういった意味ではこの姿が将来目指すべき働き方の1つなのかと思い、研修当初に抱いていた大変さも、後半になった頃には見方が変わりました。それは技術とはまた違ったものですが、これもまた土佐町で経木製造を営む上で、参考にしたく身に着けたい空気感です。
今回の研修では製造方法について学んだだけではなく、経木そのものを単なる包材としてではなく、土佐町の山や物語を伝える『芸術』として再定義したいという、新たな視野でした。
阿部さんから感じたこの熱量や空気感というものを、如何に土佐町で実践していくのか。研修に行った事で考える事がより増えましたが、起業できるまでにしっかりと形にしていきたいと思っています。

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